2015年2月13日金曜日

「文脈棚」の誕生まで

「癒しと憩いのライブラリー」は2万冊超の蔵書全体が、い
わば1冊の巨大な「物語」として読むこともできるように構成されています。そしてその物語の骨子は、全国の読書家から寄贈して頂いた本を1冊ずつ吟味する作業のなかから浮上してきたものです。
 ネットをつうじて寄贈のお願いを開始した2013年早春から、サザンクロスリゾートには連日のように大小のダンボール箱が届きはじめました。ホテルからお借りした会議室を倉庫兼作業場として、近隣に住むボランティアたちと一緒にまずはじめたのがシール貼りでした。
 1枚はタイトル/著者/寄贈者/出版社など、その本にかんする情報を登録するためのバーコードシール、もう1枚は寄贈者のお名前を銘記するためのシール。この2枚のシールをすべての本に貼っていく。それは地味で根気を要する手作業でした。
 ホメオパシー、ヨーガ療法、鍼灸など代替療法のセラピストをはじめ、外資系IT企業出身の情報処理専門家、保育士、看護師といったさまざまな職業のボランティアが、仕事や遊びの時間を割いて、気の遠くなるような作業に明け暮れる日々がつづきました。
 同年5月、ライブラリー企画の生みの親であり、ボランティアの庇護者であったホテルの北村重憲オーナーが急逝。7月のオープニングを控えていたスタッフのあいだに激震が走りました。利益を生む仕組みをもたないライブラリーが、庇護者を失ったまま無事オープンできるのか?
 幸い、ご子息である現社長(北村太一さん)のご理解を頂いてライブラリー企画は続行する運びとなりましたが、その時点でも続々と到着する段ボール箱はふえる一方で、シール貼りの作業がオープンには間に合いそうもありません。もっと多くのボランティアの手が必要だ。だれかいないか?
 窮余の一策でスナックのママさん(この方は趣味の文芸書を大量に寄贈もして下さいました)や元伊東芸者の妙齢のご婦人などにも声をかけ、シール貼りの作業はほぼオープン前夜までつづきました。
 ぼくはできるかぎりシール貼りの作業に参加し、貼りながら自分自身や同室のボランティアたちが貼っていく本の内容を記憶することにつとめました。「ごくゆるい意味で〈癒し〉と〈憩い〉にかんする本」という条件をつけて寄贈をお願いしたものの、実際にどんな本が寄贈されてくるのかは皆目見当がつかなかったからです。

 こうしたシール貼り作業を重ねる過程で生まれてきたのが、現在のライブラリーに見られる「文脈棚」の、ぼんやりとした構想でした。1冊の本の目次が「章」や「節」に分かれているように、ライブラリー全体を1冊の本と見立てたとき、どんな「章」や「節」を立てればいいのか。そう考えながら蔵書の分類を少しずつ組み立てていったのです。
 現在の文脈棚は完成した作品ではなく、つねに寄贈者の読書傾向や嗜好を反映しながら、これからも少しずつ成長していくはずです。

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