2013年2月23日土曜日

ブックオン


館長ブログ窓口(なんだかパス入れに閉じ込められているような気分だが)の左側「みんなで創る、みんなで集う・・・」に、「本の整理はしたいが、ブックオフの若造に捨て値をつけられ、せっかく集めた本が散逸することには耐えられない。そういう人が大勢いる」と書いた。

蔵書の大量寄贈者のひとりからもこんなメールが届いている。

「以前は古書店の主人とのやりとりを楽しみながら本を売ったりもしたものですが、ブックオフのような古書店が主流となってからは、逆に売らなくなってしまったように思います。たくさんの思いをこめて持ってているのに、バイト勤務の若者に二束三文の値段をつけられてしまう哀しさがあり、書棚とは別の場所に『保管書物』として収納してありました」

ももせいづみ Official Site
このメールの発信者はコラムニストのももせいづみさんである。
アトリエいづみを主宰するももせさんは日経ウーマン「女性のつくるホームページコンテスト」でグランプリ受賞、自由国民社「インターネット絵本コンテスト」優秀賞受賞などで知られている。みずからも20冊以上の著書をもつももせさんは大の本好き。

ももせさんはメールでこう続けている。
「(保管書物にあるような)本をライブラリーで引き取っていただけるのは本当にありがたいことです。家にあっても改めて読むことはあまりないので、役立てていただけるのであれば本も本望かと思います」

そうなのだ。ぼく自身もそうだが、ももせさんのような本好きは、本の立場に立ってものを考える。ブックをオフせずに、オンの状態にしておきたいのだ。
「オフ」は離れること、縁が切れることであり、「オン」は離れずに接していること。当ライブラリーがつくろうとしているのは、いわば「ブックオン」の状態を持続させるための、「本も本望」な時空間なのである。



上野圭一


2013年2月1日金曜日

「館長の定点観測」はじめての投稿


 東京から伊東に転居して9年目を迎えた。
 年ごとに東京に出る頻度が急落している。 数年前、伊東の名旅館「わかつき別邸」で文化人類学者の辻信一さんと対談し、その内容を大月書店が『スローメディスン』という本にしてくれた。

その本の「はじめに」で、辻さんはこう書いている。 「伊東の『わかつき別邸』での上野さんとの対談以来、ぼくはブータン、タイ、韓国、長野、岩手、福岡、大分、熊本へと旅を重ねた」。 なんということだろう。ぼくはそれ以来、東京に数度、ワシントンDCと福岡に1度行っただけで、あとはほとんど伊東にへばりついていた。
辻信一さん

 若いころは辻さんのように軽々と移動していたが、昨今はすっかり足が重くなっている。 年のせいもあるが、伊東という土地のせいでもある。

 相模湾から昇る朝日を拝み、森で遊ぶ色とりどりの小鳥たちを眺め、イヌたちと山を歩き、のんきな友人たちと談笑し、毎日、近くの旅館で温泉に浸っていると、もうどこにも行きたくなくなるのだ。

 ごたぶんにもれず、伊東も不況のさなかにある。かつて賑わった安針通りもシャッター通りになっている。「わかつき別邸」も営業停止となった。 でも、海や森や温泉や人は変わらない。 しばらくはここに留まって、ライブラリーづくりのために動いてみよう。
スローメディスン

 というわけで、ブログやツイッターというものを毛嫌いしていたぼくがはじめて書くこの欄のタイトルは「館長の定点観測」にきめた。 おつきあい願えれば幸いだ。



2013年2月1日
                         癒しと憩いのライブラリー
                         館長 上野圭一(翻訳家)      

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