以来、僕たちは当時のいいかたで「メル友」となり、ごくたまにメールのやりとりをしてきた。新刊が出るたびに、彼女は律儀に送ってくださる。そのうち何かの雑誌で対談をすることになり、下北沢のばなな事務所にお邪魔したこともあった。何の雑誌で何を喋ったのかは憶えていない。憶えているのは次回は下北沢を案内してくれるという彼女からのオファーだが、それもまだ実現していない。
「癒しと憩いのライブラリー」が開館するとき、ばななさんは大量の本を寄贈してくれた。もちろんご自身の著書が中心だったが、そのほかにもスピリチュアル系の本などを段ボールにいくつも送ってくださった。お礼の電話をかけ、ついでに調子に乗って、ライブラリーの開館式典で祝辞をいただけないかとお願いしてみた。即座に「人前で喋るのが苦手なので無理」と断られた。「そうだよね。僕も苦手なのでよくわかる」といって無礼を詫びた。
そのばななさんの新著が届いた。シリーズものの第1話『吹上奇譚・ミミとこだち』で、一読魅了された。これまでのばななさんの作品とは何かが違う。そろそろ小説を読むことが面倒になりつつある後期高齢者をも魅了してやまない自由奔放なファンタジー性がある。「ミミ」と「こだち」という二卵性双生児をとりまく人物がなんとも不思議かつリアルな人たちで、彼らの棲む「吹上」という街全体が物語性の匂いを強く発散している。
それもそのはず、「あとがき」にはこんな記述があった。「思えば三十年、常に書き続け、自分の事務所を経営してきた。この小説以降は、半分引退してひとりになる。これまで事務所でいっしょに働いてくださった全ての人に心から感謝している」。
よしもとばななは覚悟を決めて一皮むけ、変身しようとしているのだ。
第2話『どんぶり』が楽しみだ。
『吹上奇譚・ミミとこだち』は当ライブラリー「日本の作家」「や行」の棚であなたを待っています。
2017・11・15
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